【はじめに】
妊娠高血圧症候群とは、一般的に妊娠20週以降から分娩後12週までにかけて妊娠期の妊婦さんや産褥婦において高血圧がみられる状態を意味します。
高血圧のみならず蛋白尿の兆候を伴う場合もありますが、あくまでも病態の主体は高血圧であって蛋白尿や随伴する浮腫症状は高血圧に伴って合併するという概念で捉えられるために、妊娠中毒症から「妊娠高血圧症候群」へと名称変更された経緯があります。
普段からミネラル摂取を格段に意識している妊婦さんは皆目ほとんどいないと考えられており、特に現在のところでは日本人のマグネシウム平均摂取量も減少していますが、妊娠高血圧症候群を予防するためにマグネシウムは非常に重要な要素であると考えられています。
マグネシウムは昔ながらの日本食では豊富に摂取できるものが多いとされていますが、その一方で複数のミネラルやビタミンを同時に補うことができるサプリメントによってマグネシウム成分を摂取する人も最近では散見されます。
今回は、妊娠高血圧症候群にならないためにマグネシウムのサプリメントを摂取する重要性などについて説明します。
【第1章】妊娠高血圧症候群になる原因とは?
妊娠高血圧症候群とは、妊婦さんに発症する高血圧症であり、放置すると胎児にも様々な悪影響が出るため、慎重な対応が必要となる疾患です。
これまでの調査でこの病気を引き起こす明確な原因や病態は解明されていませんが、リスク因子としては年齢が15歳以下40歳以上である、あるいはBMI 25以上の肥満である、初産で多胎妊娠をしているなどが考えられています。
また、基礎疾患として甲状腺機能異常症、糖尿病、原発性腎疾患、全身性エリテマトーデス、抗リン脂質抗体症候群、本態性高血圧症などを有している人は本疾患に罹患しやすいとも言われています。
さらに、わが国における妊娠高血圧症候群で最も有力な原因として、胎盤の血管の形成異常や血管内皮の増殖などによる影響が挙げられています。
前提となる背景として、人間の胎盤はその形成過程で一度子宮側に位置するらせん動脈と呼ばれる血管構造を破壊して、より多くの血液や栄養分が胎児に行き渡るように概ね妊娠10週から15週前後にかけて血管壁の構造を作り直すと伝えられています。
しかし、妊娠高血圧症候群を患っている妊婦さんの体内では、この血管壁の再構成が不十分である結果、胎盤を経由して胎児に本来到達するべき栄養素や酸素の供給が完全ではなくなってしまいます。
そうして、母体はその課題を何とかしようと、自らの体を出来る限り高血圧にまでして胎盤を通じて胎児に栄養分などを送ろうとするがゆえに妊娠高血圧症候群を発症すると考えられています。
【第2章】妊娠高血圧症候群にならないためにマグネシウムサプリメントを摂取する重要性
万が一にも妊娠高血圧症候群の診断をされたケースでは、その重症度に関わらず基本的には入院管理が望ましいとされています。
妊娠高血圧症候群の根本的な治療方法は妊娠を終了すること、つまり分娩を行うことであり、胎児の発育状況を考慮しながら注意深く経過観察して妊娠継続を目標とすることもあります。
また、妊娠を継続する症例では、安静、降圧剤投与と同時に、けいれん症状を伴う子癇発作を予防するために硫酸マグネシウムを投与することも検討されます。
このように深刻な病気である妊娠高血圧症候群を未然に防ぐ効果的な予防策はいまだ判明されていないのが現状ですが、十分な休養や睡眠、あるいは適度な運動、そして精神安定を図るリラックスそのものは本疾患にならないために一定の効果があると言われています。
そして、近年の研究によれば、妊娠高血圧症候群の妊婦さんにおいては血中及び細胞内のマグネシウム濃度が正常妊婦さんよりも有意に低く、マグネシウム不足が深刻な病的レベルにまで達していることが判明してきました1)。
通常のケースでは、妊娠初期にはマグネシウムが細胞内に大量に取り込まれるために、それに反応して血清マグネシウム値が低下する傾向があります。
一般的に、マグネシウムは350種類以上の酵素の働く調整機構に関与していますが、蛋白尿などを呈する妊娠高血圧症候群の方々でもマグネシウムが相対的に不足している傾向が認められています。
マグネシウムは1926年以来から生体にとって必須元素であることが知られています2)。
原則として、マグネシウムなどのミネラルそのものは基本的には体内で十分な量を作ることができませんから、食品などから摂取する必要がありますが、食事などで十分な量を取れない場合には市販で販売されて容易に手に入るサプリメントを活用する方法もあります。
通常では、サプリメントの容器には摂取量程度しか記載されていないことが多いため、飲むタイミングはいつが望ましいのか迷ってしまう妊婦さんも多いです。
基本的には、いつどのようにサプリメントを飲んでもいいのですが、まずは食後に1日の目安量を分けて飲んでみることをお勧めします。
総合的に考慮すると、妊娠高血圧症候群を予防するためには、普段から意識して食べ物やサプリメントなどからマグネシウム成分を摂取する必要性があると言えるでしょう。
【まとめ(おわりに)】
日本産科婦人科学会によれば、「妊娠高血圧症候群」はいわゆる妊娠20週以降に高血圧兆候が認められて分娩後12週までに改善するケース、あるいは妊娠前からの高血圧状態に蛋白尿を合併する場合のいずれかであるという定義が規定されています。
医学研究が進んでいくにつれて特に高血圧が母体や胎児に格段の悪影響を及ぼすことが判明してくると共に、2005年4月に「妊娠高血圧症候群」という病名を名付けて、高血圧の基準として収縮期血圧140mmHg以上、或いは拡張期血圧90mmHg以上と定めました。
本疾患を事前予防、あるいは早期発見するために妊婦健診をきちんと受診して産婦人科医のもとでしっかりと周産期管理を受けるように意識しましょう。
そして特にマグネシウムは、妊娠中に必要量が通常レベルよりも増加する傾向がありますので、意識して摂りたいミネラルの代表格です。
もし、妊婦さんがマグネシウムを多く含んだ食品を取り過ぎたとしても、小腸などで吸収量が調節されて、尿や汗と共に排泄される作用が働くために通常の食事においては過剰症になることはほとんどありません。
もし周りに妊娠高血圧症候群に関して悩みを抱えている妊婦さんがいたら、十分な水分量やバランスの良い食事を規則正しくしっかり食べて、マグネシウムなどのミネラル成分の栄養を摂取するように教えてあげてください。
日々の食事内容やサプリメント栄養をうまく活用してマグネシウムの摂取方法を工夫することによって妊娠高血圧症候群にならないように実り多い有意義な生活を送りましょう。
今回の情報が少しでも参考になれば幸いです。
引用文献
- 小林浩, 吉田昭三, 佐道俊幸: マグネシウム摂取による妊娠高血圧症候群の改善と予防に関する研究.平成18年度助成研究報告書.77-81, 2006.
DOI https://www.saltscience.or.jp/general_research/2006/200637.pdf
- 千葉百子、篠原厚子、松川岳久:マグネシウムと健康-栄養、医薬品、環境の観点から-. Biomedical Research on Trace Elements. 2011 年 22 巻 4 号 p. 59-65.
DOI https://doi.org/10.11299/brte.22.59
著者について
■専門分野
救急全般、外科一般、心臓血管外科、総合診療領域
■プロフィール
平成19年に大阪市立大学医学部医学科を卒業後に初期臨床研修を2年間修了後、平成21年より大阪急性期総合医療センターで外科後期臨床研修、平成22年より大阪労災病院で心臓血管外科後期臨床研修、平成24年より国立病院機構大阪医療センターにて心臓血管外科医員として研鑽、平成25年より大阪大学医学部附属病院心臓血管外科非常勤医師、平成26年より救急病院で日々修練しております。
■メッセージ
私はこれまで消化器外科や心臓血管外科を研鑽して参り、現在は救急医学診療を中心に地域医療に貢献しております。日々の診療のみならず学会発表や論文執筆等の学術活動も積極的に行っております。その他、学校で救命講習会や「チームメディカル:最前線の医療現場から学ぶ」をテーマに講演しました。以前にはテレビ大阪「やさしいニュース」で熱中症の症状と予防法を丁寧に解説しました。大阪マラソンでは、大阪府医師会派遣医師として救護活動を行いました。